last updated 1997/07/23
第69話(全130話)
神族(8/10)
あの、まぼろしの少年ともう一度逢いたいのです。どうすれば逢えますか?
これが、あたしの質問。
たったひとつの質問。
心を裸にして、すべてを世界にさらけ出してみたら、本当に知りたいのはそのことだった。
城を出る決意を固めた時には、まさかこんな質問を抱くようになるとは夢にも思わなかった。
それは、変化したからなの?
あの少年に胸がキュンと疼いた瞬間に、あたしは変化したと、そういうことなの?
「きみの質問の答えを言おうか」
長老はマリカをみつめて、コホンとひとつ咳払いをした。
「その少年に逢いたいのなら、旅を続けなさい」
「旅を?」
「そのまぼろしの少年は、旅の終点できみを待っているじゃろう。その少年にもう一度出逢っ
た時、きみのひとつの旅が終わる。それが答えじゃよ」
マリカはみつめてくる長老を無言のままみつめ返す。
あの男の子があたしを待っている・・。
その答えはマリカの胸の奥を、またキュンと疼かせた。裸になった心に、その少年の姿は鋭
い矢のように突き刺さる。
彼にもう一度出逢う時が、あたしの旅が終わる時。
ひとつの旅が終わる、と長老は言った。ということは、次なる旅がはじまる、ということな
のだろうか? その旅をわたしはひとりではなく、彼とともに歩むことになるのだろうか?
問い重ねたかった。
しかしそれは、習わしに反していた。質問はひとりにつき、ひとつだけなのだ。
長老はピートのほうに目を向ける。
「では、きみの質問に答えよう。・・私達は、きみという風が現れるのを待っていた、とはじ
めに言ったね。覚えているかな?」
「はい。でも意味はわかりませんでした」
「説明しよう」
言って、長老はロボットを囲炉裏の前まで連れて行った。そして揺れる炎をみつめる。
ほかのアーバムたちが進み出て、マリカたちを小屋の外へと連れ出そうとする。
「あたしたちをどこへ?」
「心配いりませんよ。別棟でお待ちなさい。長老さまがそれをお望みです」
「何だ、ロボットへの答えは秘密なの?」とパピロ。
「デリケートな答えなのでね」といちばん若いアーバム。
「デリケート? 機械なのに? それって変じゃない? ぼくの質問なら人前で答えて良くて
、どうして機械の質問はデリケートだから秘密ってことになるの?」
〈きみより、マスターのほうがずっと複雑な問題を抱えてるってことさ〉とフィンフィン。
「それはマリカに対して失礼な言い方だと思うよ」
とパピロは言ったが、とうのマリカは脳裏に刻まれた不思議な少年のことを考えていた。そ
れにアーバムたちが人払いを求めるなら、それはそれだけの理由があるのだし、その理由を尋
ねたくても、もう質問は一切受け付けてもらえないのだ。
単に好奇心から「ここに残りたい」と懲りずに空騒ぎをしているパピロを何とかとなりの小
屋まで連れて行って、ふたたび若いアーバムが戻ってくるのを待ってから、長老はピートに話
しかけた。
「あの火が見えるね」
「はい」
「揺れているだろう?」
「ええ」
「本来、揺れていてはいけない火なのだよ。炎の揺れは、世界のどこかでパランスが崩れてい
ることを現しているのじゃ」
「バランス・・」
「崩れてはならないものだ。崩れれば、世は乱れ、星の運命そのものが危うくなる。わかるか
ね?」
「そういう大きなバランスが宇宙にはあるのだろうということはわかります」
「私達が神の末裔とかと呼ばれているのは、そうしたバランスを常に維持する方法を知ってい
る種族だからだ。別に空の上の誰かさんの孫だというわけじゃない。それもわかるね?」
わかる。アーバムが本当に神さまの末裔だとしたら、神さまはズングリムックリの鳩だって
ことになってしまう。末裔なのではなく、宇宙に秘められた魔法を読み解く知恵を受け継ぐ種
族なのだろう。神というより一種の魔術師なのかもしれない。
「バランスが崩れはじめたのを火の形を見ることで知ると、私達は井戸の水を汲んできて、炎
に水をかける。乱れはじめた秩序に水を差すわけだ。そうすることで、炎は生まれ変わり、新
たなバランスが維持される。だが、今回の火の揺れは、いくら水を差しても治まらない。何か
別の方法が必要らしいのだ」
「風、ですか?」
「そう風だ。太陽と海の間に空があるように、火と水の間に風が入ることではじめて維持でき
るバランスもある。陽が照り、風が吹き、雨が降ることで植物が育つ世界のことをヒフミの世
、というのじゃが、そういう秩序が求められる時がある。どうやら今回がそうらしい。それが
わかって、私達は風の到来を待っていた」
「そこへ、あなたがこの世界に飛び込んできたのよ」
「一陣の風のように」
「ぼくがマスターの中に飛び込んだことまで知ってるんですか?」
「炎が揺れたからね、その時も」
「風がどんな質問を携えてやってくるかで、ひとつの答えが導き出される」と長老。「私達は
、風が運んでくる質問を待ち受けていた。その答えこそが、この水を差しても治まらない火の
揺れを止める方法だからじゃ」
「ぼくの質問・・」
「帰り道を教えてください。そうだったね?」
「はい」
(つづく)
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